実家を「売る・貸す・壊す・持ち続ける」の判断の整理|4つの選択肢の向き不向き
公開: 2026年9月1日 最終更新: 2026年9月24日
相続した実家をどうするか。親族で話すと「売るべきだ」「まだ手放したくない」「ひとまず貸せば」と意見が割れ、結論が出ないまま年が過ぎていく――よくある経過です。選べる4つの道を、同じ物差しの上に並べて整理します。
- 選択肢は「売る」「貸す」「壊して更地にする」「持ち続ける」の4つ。正解は建物の状態・立地・家族の希望で変わります。
- 先に決めるのは選択肢そのものではなく、判断の軸(現金化の必要性/かけられる手間と費用/建物と土地の状態)です。
- 期限のある制度(相続登記の3年、空き家の譲渡所得の特例)があるため、「決めない」という状態にも時間のコストがあります。
まず、判断の軸を3つ決める
いきなり「売るか貸すか」を議論すると、好みと思い出の話になって結論が出ません。先に決めるのは次の3つです。
軸1:現金化が必要か、残したいか。 遺産を分ける必要がある、納税資金が要るという事情があれば現金化できる道が現実的です。子どもが将来戻る可能性があるなら、残す前提で考えます。
軸2:かけられる手間と費用の上限。 「年にいくらまで出せるか」「年に何回現地に行けるか」を数字にすると、議論が具体的になります。
軸3:建物と土地の状態。 昭和56年5月以前の旧耐震基準か、雨漏りやシロアリの被害があるか、建て替えができるか、周辺に需要があるか。希望ではなく事実の問題なので、登記事項証明書・固定資産税の納税通知書・現地の確認で押さえます。
もう一つの前提が名義です。相続登記が済んでいない、共有名義のままだという状態では、売ることも貸すことも解体することも、原則として共有者の合意なしには進みません。相続直後の段取りは実家を相続したら最初にやることにまとめています。
売る:区切りをつけられるが、特例には期限がある
向いている場合。 遠方で通えない、使う予定がない、相続人が複数で分けたい、維持費を止めたい。所有権が移れば、固定資産税も管理の手間も近隣への責任も手を離れます。逆に、将来使う可能性を残したい、境界が未解決、共有者に反対がいるなら急ぐべきではありません。売却は後戻りできないからです。
費用と手間。 仲介は買い手を探すぶん時間がかかりますが、価格は市場の水準に近づきます。買取は早く確実な一方、業者が再販の手間とリスクを負うぶん価格は低くなるのが通例です。費用は仲介手数料(宅地建物取引業法で上限が定められています)、残置物の処分費、必要に応じた測量費、相続登記の費用など。家財が残る実家では処分費が膨らみがちです。
注意点:税金と期限。 国税庁のタックスアンサーNo.3306「被相続人の居住用財産(空き家)を売ったときの特例」は、要件を満たす場合に譲渡所得から最高3,000万円(令和6年1月1日以後の譲渡で、その家屋と敷地を相続・遺贈で取得した相続人が3人以上の場合は2,000万円)を控除できる制度です。主な要件は、昭和56年5月31日以前に建築された家屋であること、区分所有建物登記がされた建物でないこと、相続開始の直前に被相続人以外に居住していた人がいなかったこと、売却代金が1億円以下であること、相続の開始があった日から3年を経過する日の属する年の12月31日までに売ること、譲渡の時に耐震基準に適合しているか家屋を取り壊していることです。制度の適用期限は令和9年12月31日までの譲渡とされています。一つ外れると使えないため、方針が見えた段階で税務署または税理士に確認してください。
貸す:家を残せるが、続ける覚悟が要る
向いている場合。 周辺に賃貸需要があり、建物が比較的新しいか手を入れれば住める状態で、手放したくない理由があること。人が住めば換気と通水が日常的に行われるため、空き家のまま置くより傷みは進みにくくなります。旧耐震の木造で大規模な改修が要る、駅や商業地から遠く借り手が見込みにくいという場合は不向きです。工事費を賃料で回収するのに何年かかるかを計算し、回収前に次の判断が来そうなら貸す意味は薄くなります。
費用と手間。 貸す前に水回りの更新、内装の張り替え、残置物の撤去といった工事が先行します。賃料が入る前の持ち出しです。入居後も、給湯器やエアコンなど建物に付属する設備の修繕は原則として貸主の負担です。遠方なら入居者の連絡に応じる体制が要り、自主管理が難しければ賃貸管理会社に委託することになります。委託の範囲や会社の探し方は、姉妹サイトの賃貸管理会社の比較サイトが参考になります。
注意点。 一度貸すと、借地借家法により貸主の都合で簡単には返してもらえません。将来使う予定や売る予定があるなら、期間を定めて終了する定期借家契約が選択肢になります。家賃収入は不動産所得として確定申告の対象です。また、退去のたびに原状回復の精算が発生し、入居者の故意・過失による損傷と、普通に住んでいれば生じる経年変化・通常損耗では扱いが異なります。退去立会いと原状回復の実務は、姉妹サイトの退去立会い・原状回復の情報サイトにまとまっています。借り手を自分で探すほかに、自治体が運営する空き家バンクに登録する方法もあります。
壊して更地にする:危険は消えるが、税の扱いが変わる
向いている場合。 建物が傾いている、屋根や外壁が落ちそうで近隣に危険が及びかねない、修繕費が建物の価値を明らかに上回る。更地のほうが買い手が付きやすい土地もあります。逆に、まだ人が住める状態で中古住宅として流通する見込みがあるなら急ぐ必要はありません。解体は不可逆で費用も先に出るため、「とりあえず壊す」は自分で選択肢を減らす行為です。
費用と手間。 解体費用は構造(木造・鉄骨造・鉄筋コンクリート造)、延床面積、前面道路の幅や重機が入れるか、残置物の量、アスベストを含む建材の有無で大きく変わり、一律の相場は示せません。複数の業者から現地を見たうえでの見積もりを取り、「何がいくらで、何が含まれていないか」を比べてください。工事前には法令に基づく届出や事前調査が必要な場合があり、通常は工事業者が案内します。取り壊したあとは1か月以内に建物の滅失登記を申請します(不動産登記法)。
注意点:固定資産税。 住宅が建つ土地には固定資産税の住宅用地特例が適用されていますが、取り壊して更地にすると対象から外れます。1月1日時点の状況で課税されるため、解体の時期によって翌年度から土地の税額が上がります。仕組みは特定空家等に指定されると固定資産税はどうなるかで整理しています。
補助金について。 老朽化した空き家の除却に補助を出す市区町村は少なくありません。ただし制度の有無・補助率・上限額・対象建物の条件・受付期間は自治体ごとに異なり、年度の予算が尽きて締め切られることもあります。ほとんどの制度は着工前の申請が条件で、契約してから探しても間に合いません。物件のある自治体の制度は市区町村ページから開いて確認してください。なお前章の特例を使う場合、取り壊しと売買契約の順序が要件に関わります。
持ち続ける:成立するのは「管理する」場合だけ
向いている場合。 親族が将来使う見込みがある、建て替えを検討している、相続直後で家族の合意形成に時間が必要。決めるまでの時間を買う、という判断も含まれます。向いていないのは、使う予定がなく管理の手当てもしないまま持ち続けることです。これは選択ではなく先送りで、その間に建物の価値は下がり、売りにくく貸しにくくなります。
費用と手間。 固定資産税・都市計画税、火災保険料、電気や水道の基本料金、管理の費用がかかり続けます。年額に直して「1年持つといくらか」を出すと比べやすくなります。委託する場合の費用の見方は空き家管理の費用の考え方にまとめています。
注意点。 空家等対策の推進に関する特別措置法は、放置すれば特定空家等になるおそれのある状態のものを管理不全空家等として位置付けており、市区町村長の勧告を受けるとその敷地は住宅用地特例の対象から外れます。持ち続ける選択は、管理する前提とセットです。
建物を取り壊したあと土地だけが残り、それも要らないという場合には、法務省が所管する相続土地国庫帰属制度があります。相続や遺贈で土地を取得した相続人が、承認を受けて国庫に帰属させる仕組みで、令和5年4月27日に始まりました。建物がある土地は申請できず、担保権が設定された土地、土壌汚染のある土地、境界が明らかでない土地なども却下されます。審査手数料は土地一筆あたり14,000円、承認されると10年分の標準的な管理費用に相当する負担金を納めます。
4つを比べても決まらないときは、期限のあるものから逆算します。査定・解体見積もり・自治体窓口への相談は多くが無料で並行して進められ、つなぎの管理を先に決めておけば、焦った決断をせずに済みます。
この記事は一般的な整理です。個別の物件や家族の事情に当てはめた判断は、税理士・司法書士・不動産の専門家や、物件のある市区町村の空き家相談窓口にご相談ください。
参考情報
本文で触れた制度は、以下の公的機関の公開資料に基づいています(2026年9月20日確認)。
- 国税庁「No.3306 被相続人の居住用財産(空き家)を売ったときの特例」 https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/joto/3306.htm
- 法務省「相続土地国庫帰属制度について」 https://www.moj.go.jp/MINJI/minji05_00454.html
- 法務省「相続土地国庫帰属制度(申請できない土地・承認を受けられない土地)」 https://www.moj.go.jp/MINJI/minji05_00457.html
- 国土交通省「空き家対策」 https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/house/akiya-taisaku/index.html